朝日が地面に影を作る午前5時。まだ人気の少ない住宅街に、カッコウののどかな声が響きます。声の出処は、住宅に囲まれてぽつんと残された農家の屋敷林です。ひときわ背の高いケヤキの頂にとまり、大きな口を開けて鳴く様子が、双眼鏡でもはっきりと見えます。
東京都三鷹市の住宅街では、例年5月下旬にカッコウが渡来し、7月半ばまでその姿や声を頻繁に見聞きすることができます。しかし、今シーズンはその状況に異変が起こっています。初認日は、例年よりやや遅い5月25日でしたが、その後は6月9日、6月18日と2回確認したのみで、毎朝声を聞くような状況ではありません。確認地点も例年とは異なり、6月の2日間はかなり遠方から声が聞かれました。総合すると、今シーズンは例年のように屋敷林をテリトリーする個体はいないようです。また当地以外でも、都内でカッコウの声を聞いていません。
三鷹市のカッコウに何があったのでしょうか。当地での主要な托卵鳥と考えられるオナガは、今年も屋敷林の周辺で繁殖しています。住宅地や屋敷林周辺にも、特に環境の変化はありません。1つ考えられることとして、餌となる昆虫の少なさがあります。上空を飛ぶトンボや、灯火に飛来する甲虫やガなど、身近で見られる昆虫が以前よりも明らかに減っています。ここ数年の昆虫の減少傾向は、梅雨時の異常な高温や、猛暑日の長期化とも関係しているのかもしれません。
北多摩の場合、カッコウの個体数は以前から多くはありませんでした。農耕地が点在する環境でのみ少数が見られていたことから、本種の生息にあまり適した環境ではなかったのかもしれません。それが、ここ数年の食資源の減少傾向により、ついに生息できない環境になってしまったのでしょうか。
興味深いことに、今シーズンは他の地域でもカッコウ科の鳥が少なかったそうです(NPO法人バードリサーチ 公式X https://x.com/BirdResearch/status/1939193511867490587)。皆様のフィールドでは、カッコウやホトトギスの動向はいかがですか。〔鈴木遼太郎〕