2023年9月17日日曜日

東京都区内でのフクロウの近況・2

  

  東京都区内の猛禽類の繁殖調査を実施していますが、その中の「フクロウ」の繁殖が、葛飾区の水元公園で観察されました。確認したのは同公園を中心として自然観察・調査を続けている長谷川恵一さん。その報告は長谷川さんが所属する「みずもと自然観察クラブ」の会報『かいつぶり・361号』に載せられていました。 

水元公園は埼玉県三郷市と接していて、広大な水辺と森と広場があり、23区内でもっとも広い(96.ha)都立公園です【写真】。報告によると今年の716日に、あまりよく飛べない巣立ちビナを確認。近くに親鳥もいて給餌をしているような行動も観察されたとのこと。721日にも少し飛べるようになったヒナと親鳥の給餌が認められていますが30日には親鳥だけ、そして86日には親鳥もヒナも確認できなかったとのこと。同公園では2009年にも営巣が観察されているとのことです。

 

この公園には園内に水辺沿いにバードサンクチュアリがいくつもあり、カワウやサギのコロニーなどもあります。今年56月の研究部の現地調査ではキビタキやウグイスの囀りが各所で聞かれています。また、かつては同じフクロウ類のアオバズクの繁殖地としても知られている場所です。             〔日本野鳥の会東京・研究部〕

2023年8月28日月曜日

大森ふるさとの浜辺公園のムナグロ

  

  8月中旬の大潮の日、大田区の大森ふるさとの浜辺公園に行ってみると、人工干潟の上でムナグロが採餌しており、最大で7羽を観察できました。距離が遠くて画像は不鮮明ですが3羽のムナグロが写っています【写真】。この公園は2007(平成19)年に、京浜急行の大森町駅や平和島駅からそれぞれ徒歩15分くらいの内川の河口部に造成された海浜公園です。公園には人工砂浜が設けられていて、特に夏は家族連れなどに大人気です。釣り船などの通る水路と人工砂浜の間には船の波を除けるための堤防があり、その周囲が干潟として造成されています。この干潟を利用するシギ・チドリはあまり多くないのですが、その中でムナグロは観察される頻度が高いようです。 

この場所では大田区都市基盤整備部によって四季を通じて鳥類、魚類、植生などの調査が行なわれており、私も鳥類調査の調査員として参加しています。調査の結果は環境調査報告書として毎年大田区より発行されます。この資料を使ってムナグロの観察頻度を定量的に調べてみました。季節は春(45月)、秋(810月)、冬(112月)を対象とし、夏(67月)はシギ・チドリが観察されないので除外しました。20195月から20231月までのほぼ4年間のデータでは、ムナグロが観察されたのは16/31回(調査3116回)で、季節ごとの内訳は春:2/8回、秋:9/12回、冬:5/11回となりました。春は少なく秋に多いのですが、冬にも4割以上の確率で出現しているのが注目されます。なお観察の最大羽数は春:1羽、秋:11羽、冬:3羽でした。 

上記のデータは近年の三番瀬探鳥会や谷津干潟探鳥会におけるムナグロ出現頻度よりも明らかに高く、「ムナグロを見るならふる浜へ」と言えなくもありません。ただし昨年はなぜか出現が1/7回と少なかったのが気になります。今年の秋、そして冬の状況に注意したいところです。                       〔川沢祥三〕

2023年8月19日土曜日

猛禽類の台頭で「東京の鳥相」はどう変わるのか

  

   今年の研究部の継続活動に「猛禽類の生態・繁殖調査」があります。とくに注目しているのは、人が大勢住み・働いている市街地の「鳥相」で、オオタカ・ツミ・チョウゲンボウ・アオバズクに加えてフクロウが繁殖種に加わり、かつての東京では考えられなかった“猛禽類繁栄”の時代となっています。 

今春、都内全域を対象にした『繁殖期2023』調査でも、市街地の緑地でのオオタカの繁殖・生息記録が目立ちました。なかにはオオタカが1つの緑地で2か所という例もありました。また、ツミやチョウゲンボウ、トビ、アオバズクの営巣も報告されました。とくに鳥類を主食とするオオタカ・ツミ・チョウゲンボウの台頭は、街なかに棲む野生鳥類に影響がないわけはありません。“コサギなどの小型のサギを見かけなくなった”・“シジュウカラの数が減った”などの観察や調査結果が耳に入ってきます。まだ、きちんとした裏付けるデータは少ないようですが、今後いろいろな情報・データが出されてくると思われます。【写真・洗足公園で水浴びをしていたツミの若鳥・川内博撮影】

前世紀末の19752000年にかけての四半世紀は、東京を中心とした首都圏の街は“カラス天国”でした。そのようすは銀座や渋谷、池袋など繁華街で見ることができました。しかし、1999年に当会が主催したシンポジウム「とうきょうのカラスをどうすべきか」を契機に、世情は一変し、東京都が行った「生ごみ対策」・「捕殺」という両面作戦が功を奏したのか、市街地におけるハシブトガラスの姿は急減しています。「鳥相」はどんな鳥がどのくらいいるのかを調べたもので、環境を現す指標の一つとなります。“カラス全盛”時の鳥相と“猛禽類台頭”の今とその違いを分析してみたいと思っています。〔日本野鳥の会東京・研究部〕                    

 

2023年8月4日金曜日

東京都区内でのフクロウの近況

  

77日付東京新聞の「生きいき生き物」のコーナーに、武蔵野市・井の頭自然文化園で撮ったというフクロウの写真が載っていました。研究部が都内で行っている「フクロウ類調査」は道半ばで、記録を地名入りでは発表していませんが、今回の記事には撮影場所が載っていましたので、ここでその状況を少し紹介します(というより、現時点ではここまでしか情報がありませんが)。 

新聞発行日の約3週間前の6月20日、井の頭公園(三鷹市)でのオオバンの繁殖状況を見に行ったついでに、井の頭自然文化園を一周していた時、望遠レンズを構えている複数の人を見かけました。何を撮っているのか尋ねたところ「フクロウ」とのこと。樹上8メートルあたりに、2羽のフクロウを確認できました【写真・川内】。 

武蔵野市では今までフクロウの記録は文献上にはありません〔『東京都産鳥類目録2000』〕。また、約20年ごとの繁殖状況が載っている地図を見ると、西多摩地区(奥多摩)から南多摩・北多摩地区へと徐々に繁殖分布を広げていることがわかりますが、まだ武蔵野市までは届いていないように見えます『東京都鳥類繁殖分布調査報告 2016-2021』(2021年刊)。ネット上でこのフクロウについて追ってみると、数年前から付近で観察されているようで、2羽定着ということであれば、繁殖も期待できるところです。 

フクロウの区内での繁殖は、すでに千代田区の皇居と赤坂御用地での事例が公表されていますが、他の「緑島」でも可能性が高まっています。なお、市街地での「夜の鳥」の観察・調査は“不審者”扱いで通報されることがありますのでご注意ください。            〔研究部・川内博〕           

 

2023年7月10日月曜日

「繁殖期2023」調査での発見・オオバンの繁殖ほか

  

   昨年に引き続いて当会研究部が実施しています、都内本土部での全区市町村を対象として「繁殖期2023」調査は7月上旬で終了しました。調査にたずさわれた方々にお礼申し上げます。データの集積・集計などは進行中ですが、興味ある観察がいくつもありました。

  その一つが“水辺” 第一報は6月15日付の本ブログで紹介した「鷺山の誕生」で、23区の山手地域で、新規に形成されることは珍しいことです。その後の観察でも、コサギ・ゴイサギの営巣が続いているようです。 次いで「かいぼり」された水辺でのカイツブリの営巣増です。とくに吉祥寺の井の頭公園(三鷹市)では明らかに増えていて、各所で抱卵している姿やヒナ連れのようすが観察できました。この公園では、2019年からアオサギ、2020年からカワウが営巣を始めています。 さらに今夏は、冬期に急激に数が増えたということで注目されているオオバンがこの池で繁殖しました。情報をもとに6月20日に同池を訪ねたところ、2羽の親鳥と3羽の“赤い顔”のヒナ【写真・川内博氏撮影】が、またその後も7月5日には親鳥2羽と成長したヒナ2羽が確認されています。内陸部の池での繁殖は初めてと思われます

 一方、同じ仲間のバンの姿をこれらの水辺で見かけることが激減しているのは心配です。彼らの生息に何が不足しているのか検討してみる必要がありそうです。                             〔日本野鳥の会東京・研究部


2023年6月15日木曜日

ヤマガラ一家を観察・新宿御苑にて

  

  613日、梅雨の晴れ間に「繁殖期2023」の担当地・新宿御苑を調査しました。新宿御苑はJR新宿駅から近く、樹齢数百年の巨木や広大な芝生広場、バラ園、池などがあり、開放的な雰囲気のためか、以前から外国人の好む公園として知られていました。この日も聞きなれないことばが飛び交っていました。 

園内には玉藻池と水系が続いている上の池・中の池・下の池の4つの池があり、冬場にはオシドリをはじめカモ類が飛来しますが、この季節にはカルガモとカイツブリだけでした。カイツブリは玉藻池で“浮巣”を造りかけていました。その巣はまだ小さく頼りない状態でしたが、無事にヒナが誕生するのを待ちたいところです。 

ところで、調査中に芝生広場のケヤキの巨木から、あまり聞きなじみのないカラ類の巣立ちビナの声が聞こえてきました。双眼鏡でよく見るとヤマガラの子供たちでした。シジュウカラの巣立ちビナよりもっと鼻にかかった甘たるい声で、4羽のヒナが葉陰から元気よく芝生地に飛び出していきましたが、すぐにUターン。戻ってきた直後、口いっぱいの食べ物を親鳥からもらっていました【写真】。

ヤマガラは東京の緑地で繁殖分布を広げている鳥で、都心ではこの園からそう遠くない明治神宮に昔からいましたが、1972年と2012年の繁殖期の調査結果を見ると、3倍の増加がみられていました。照葉樹林を好むこの鳥が、東京都心部の緑島に生息地を広げているようです。                                                                                                      〔川内博〕

2023年5月16日火曜日

東京都レッドデータブック2023〔本土部〕の発行

  

  10年ごとに改訂されているレッドデータブックの最新版『東京都レッドデータブック2023・本土部』【写真】が発行されました。冊子版は、A4判・879ページ・フルカラーという大作です。

都のホームページによると、これまでとの違いは、ポイント1・種ごとの解説を充実。これまでの写真だけでなく、種ごとの減少要因のほか、分布図やレッドリスト、カテゴリーの変遷などもわかるように掲載した。 ポイント2東京の自然の状況を掲載、東京の自然の特徴を知ってもらうための情報を掲載 ≪東京の保護上重要な自然環境≫ 希少種保全や自然再生事例の紹介 ≪東京にゆかりのある野生生物種など≫とのことです。 

鳥類部門をみると、前回の『レッドデータブック東京2013』との違いは、種ごとに分布地図がついたことと、カテゴリーが4つの地域〔区部・北多摩・南多摩・西多摩〕ごとにされていたのが、今回はそれに加えて「本土部」という項目が作られ、本土部全体での評価を知ることができるようになっていることです。 

冊子は、東京都庁の都民情報ルーム(第一庁舎3階南側)で購入できるとのことです〔15,156円〕。ただし重量が約2.5㎏ありますので、片手でパラパラとページをめくるということはできません。その点ご留意ください。ネット版は下記のサイトで冊子原稿PDFデータを見ることができます。              〔日本野鳥の会東京・研究部〕 

https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/nature/animals_plants/red_data_book/400100a20230424184941875.html