2009年10月31日土曜日

新刊紹介・調査と保護の実例を著した矢野亮著『カワセミの子育て』

  

先日、練馬区の石神井公園・三宝寺池畔を歩いていたら、平日の午前中にもかかわらず、数十名のカメラマンが出張っていました。そんな中、3羽のカワセミが飛び交っていました。いま、ちょっとした水辺を歩くと、必ずといっていいほどその姿を見かける時代となっています。その先駆のひとつが、東京・港区の自然教育園。この地でのことの始まりは、1988年、園内で伐採した木を燃やすために掘った穴の壁に着目した一組のカワセミ夫婦から。以来21年間、紆余曲折はありながら、今年も無事雛が巣立ったようです。
ここでカワセミの保護と繁殖生態調査に腐心されている矢野亮さんが、『カワセミの子育て』を出版されました。前著『帰ってきたカワセミ』から13年、自然教育園でのカワセミの繁殖は、矢野さんたちの努力や工夫によって継続し、さまざまなデータが集積されました。日本において、これほどつぶさに繁殖の実態が観察・記録された例はありません。また、園としても繁殖環境を整えようという試みが続けられ、さらに、矢野さん自身も、親鳥がいなくなった雛たちを育て、無事に巣立たせるという体験もされています。これらの実績が1冊にまとめられていることはたいへん貴重で、意義のあることです。さらに、写真や図表などを多用してありますので、小中学生にも参考にできる内容となっています。かつて「幻の鳥」だったカワセミを、ふつうに見られる今の時代だからこそ、子供たちにも読んでもらいたい良書です。(川内 博)
〔地人書館・A5判・218ページ、2600円+税〕

2009年10月29日木曜日

シンポジウム「東京都のRDB」に参加し、意思を示そう

  

 「伊豆諸島カンムリウミスズメの調査・2009年度」というタイトルで、三宅島・アカコッコ館に勤める、レンジャーの篠木秀紀さんから『ユリカモメ』11月号に寄稿をいただきました。カンムリウミスズメ(冠海雀)は全長24㎝の小型の海鳥。学名のSynthliboramphus wumizusumeの種小名(後ろの部分・ローマ字読みでうみずすめ)から推測できるように、日本近海および韓国南部のみ見られる準日本固有種で、推定個体数5000~10000羽。東京都のRDB(1998年版)では、伊豆諸島でA(国の絶滅危惧種に相当)・小笠原諸島でB(国の危急種に相当)に指定されています。
 ㈶日本野鳥の会は、「1000羽クラス以上の安定的な繁殖地を複数箇所確保したい」という方針で、調査データの蓄積のある三宅島に重点を置き、本格的な取り組みが始められています。今回のレポートは、噴火後に再開された調査結果の第1報というところで、その中心となっている現地の篠木さんに状況報告をお願いしました。(研究部HP・トップページの研究部レポートのボタンを押すと、その月の全文が掲載されています)
 11月4日(水)に開催します「第2回東京の鳥シンポジウム・東京都のRDB」では、島の鳥については簡単に触れるだけですが、来年予定の第3回では、状況を詳しく扱うことができると思います。
 ところで、今回のシンポジウムでは、サブタイトルを「今われわれのできること」としています。町の中に住んでいて、山奥や洋上のことで私に何ができる?とあきらめている人が多いと思います。しかし、この集りにたくさんの人が参加すれば、それは大きな声となって、原動力となっていきます。ポイントは、一部の人や団体が動き・叫んでも限りがあるということで、多くの人が関心を持ち、行動するということが重要です。関連のある集りに参加するということで、その意思を示すことが「今われわれのできること」の第一歩です。
【カット】カンムリウミスズメの保護を呼びかける冊子

2009年10月17日土曜日

第2回東京の鳥シンポジウムへのご案内

  

                              クマタカ (山口孝氏撮影)
 
昨年に引き続き、第2回の「東京の鳥」シンポジウムを開催します。今回は東京都に関係するレッド・データ・ブック(RDB)の鳥たちを取り上げ、その現状と保護・対策などを考えたいと思っています。

           《どなたでも参加できます》

【タイトル】 第2回東京の鳥シンポジウム
            東京都のRDB・今われわれのできること

【パネリスト】
      青山一彦 ・ 東京都環境局自然環境部計画課係長
      金井 裕 ・ ㈶日本野鳥の会主席研究員
      川内 博 ・ 日本野鳥の会東京支部研究部長

【基調講演】
      1.緑の東京10年プロジェクト ; 青山一彦氏
      2.日本のRDBの現状 ; 金井 裕氏
      3.「レッドリスト・東京」の鳥たち ; 川内 博氏

【現地報告】
      1.森ヶ崎のコアジサシ ; 北村 亘氏
                      (東京大学大学院・農・生物多様性)
      2.西多摩の猛禽類 ; 御手洗 望氏・山口 孝氏
                      (青梅自然誌研究グループ)

【パネルディスカッション】 今われわれは何ができるか

 シンポジウムの全体の流れは、前半部では、それぞれの立場の人から、今何をやっているのか、どのようなことに力をいれているのかという講演を、また、後半部では、野外でレッドリストに挙げられている鳥たちに対して、どのようなことを実践しているかを話していただきます。そのうえで、パネリスト・報告者を交えて、参加者それぞれ、今何ができるかを考えていこうというものです。
 ちょっと硬めの内容になるかもしれませんが、東京湾岸で、西多摩の山中で、それぞれ希少鳥類に対して体をはって頑張っている人の話は聞きごたえのあり、貴重なものとなると思います。今回のシンポジウムは、日頃、野鳥たちのために、地域環境のために、何かをしたいと考えている人には、重要なヒントが得られるものとなるでしょう。
 
【日時】2009年11月4日(水)午後6時開場、6時15分~9時
【会場】渋谷区立千駄ヶ谷区民会館2階
【交通】JR山手線「原宿」、東京メトロ千代田線・副都心線「明治神宮前」・
              同副都心線「北参道」から徒歩10分
【参加費】300円            【主催】日本野鳥の会東京支部                     

2009年10月10日土曜日

「野鳥記録検討会始動」アカアシカツオドリの写真蘇る

  

 日本野鳥の会東京支部では、これまで東京都産の鳥について、客観的に検討する場がありませんでした。今回『東京都産超類目録2000』を作成するにあたって、その必要性が出てきましたので、研究部内に「野鳥記録検討会」を開設しました。座長は叶内拓哉氏。メンバーとしては大塚豊・川内博・鈴木弘行・田島基之・渡部良樹の各氏。その第1回会合が、10月8日(木)に開催されました。当日は強力台風18号が本州を直撃した日。延期が予想されていましたが、メンバーの日頃の行いが良いためか、午後には台風一過の晴れ。鈴木氏が仕事で欠席されましたが、予定されていた「珍鳥一覧」(『ユリカモメ』№648・2009年10月号掲載)の検討から始まりました。その中で記録採否の「基準」案が練られ、次のような案が出てきています。
1.初記録種については、①標本・写真・声紋など後でも確認できる物証のあり、信頼できる人が複数で確認したもの ②標本のあるもの、環境省のバンディング記録 2.初記録ではない場合は、①複数での観察 ②スケッチ・詳しい記録情報などでも可とやや緩和する 3.単独での観察記録は「参考記録」とする・・・
 これらは、あくまで「案」の第一段階で、今後検討を重ねて、決定は『ユリカモメ』誌上に発表します。いずれにしても、単独でそのような機会に遭遇したときは、観察・メモをしっかりして、写真を撮って、できれば仲間に知らせて複数で確認し、早めに発表してください。発表の場合は「印刷物」にすると説得力があります。ブログ・HPなどインターネット上で発表した場合は、年・月・日を明記した完全原稿を50部程度プリントアウトし、しかるべき人(例えば検討会メンバー、支部幹事・リーダーなど)・機関(東京支部研究部、日本野鳥の会、山階鳥類研究所など)に送っておくと記録検討の対象になります。アップしただけでは証拠として採用されませんのでご注意ください。
 写真〔田久保晴孝氏撮影〕は、1978年8月15日に、東京湾富津航路の船上で撮られたアカアシカツオドリです。未発表の記録ですが、証拠として残されていたものがいま蘇ってきました。